青の空 21話 「2年後」




試合終了のブザーが鳴った。




俺たちの中学最後の試合になった。



新人戦で見事県大会優勝を果たした俺たちは


もう一度王座を狙い最後の中総体に臨んだ。





結果は二回戦で優勝したチームに敗れた。



おれは新人戦の頃より思うようにプレーが出来ずあまり試合に出ることも出来なかった。




「終わっちゃったな...ザワ」



「ちくしょう、おれがもっと点を取ってれば...」



こんなに悔しそうなザワは初めて見た。


おれも不甲斐ない自分が悔しかった。時間が巻き戻ってくれれば。
そんな事を思っていた。



監督の最後の言葉。



2年前、3年生が引退した時と同じ。今度は俺たちが引退する番だ。



ずっと先にあるものだと思っていた未来。



いざその時が来てもあまり実感が湧かないものだ。












同じくサッカー部を引退したコージといつもの様にPマートにいた。




「終わったなあ」




「あぁ、終わったな。人生。もう俺たちには受験勉強しか残されてないんだ」




「ああっ!いやだああー」




「仕方ない。するか、勉強」




「はっ?コージお前どうしたの!?熱でもあるんじゃない?」




「ごめん、嘘ついた」




「なんだー、良かった良かった。おれなんて3年間教科書を家に持って帰った事もねえよ」



「おれも」





「あれ、あのひょろ長いおっさん、夏森じゃない?」





学校の用務員の夏森さんがPマートの前を通る。

先生達よりも比較的若く、気さくな人でよく学校で話したりする。




「よし、暇だし絡もうぜ!」




「おーい、夏森ー!」




ひょろ長い体で早そうな自転車を漕いでいた夏森は足を止める。




「なんだおまえらかよー。」




「なんだとはなんだ!豆みたいな頭しやがってー」



「うるせえな。何してんだよコンビニで。早く帰れ」




「何してんだよって、今後の未来に向けて作戦会議してんだよ。」



「あっそ」


「いいチャリだなそれ。くれ!」




「夏森は何してんの?」



「何してるって帰るんだよ。おれんちその辺だからな。」




「えー!そうなの?めっちゃ近所じゃん!」



「よし、暇だし夏森んち行こう!まだ奥さんいないんでしょ?」




嫌そうな夏森を横目に無理やり夏森の家に乗り込んだ。




独身の男の殺風景な部屋にパソコンのデスクと
アコースティックギターが2本置いてあった。



「あれ、夏森ギター弾けるの?」




「ん?まあな」




「そういえばノブも弾けるよな!」



「え?そうなの?」




「まあ、簡単なやつなら」




「じゃこれ弾ける?」



夏森が楽譜が沢山挟んであるファイルを持って来た。


開かれたのはスピッツのチェリーと書いてあるページだ。




「ああ、これなら出来るかも」




書いてある通りに弾いてみた。




「おお、本当だ。コード知ってるんだね。自分で覚えたの?」




「いや、兄貴がギターやってて昔ちょっと教えてもらっただけ」



「そうかそうか。じゃ曲に合わせて一緒に弾いてみるか」



「え?うん」



夏森がパソコンから流した曲に合わせて二人でギターを弾く。





「えー!すげーすげー!いいなー!かっこいい!夏森おれにも教えてよ!!」



「はあ〜?面倒くせえなー」



かっこいいと言われた夏森はまんざらでもなさそうだった。




久しぶりに弾いてみたギターはとても楽しかった。


他にも弾ける曲がないかページをめくっていた。



「あ、これもあるんだ」




「お?ミスチル好きなの?」




「うん、この曲は特に」



「あーそれはちょっと難しいよ。C#m7が入ってくるからね」



「そっか...」



「練習して見たら?その楽譜あげるよ」




「え?ほんとに!?」




「うん。家にギターあるんだろ?」




「兄ちゃんのやつがあるけど弦が切れちゃってて」




「は?なんだ、弦の張り方も知らねえの?じゃそのギター持ってこい。張り方教えてやるから」




「まじでか!でも新しい弦ってどこに売ってんの?ニコア?」



「あ〜この辺だとあんまり売ってないなー。じゃあおれがネットで買ってやるよ」




「ほんとか!?夏森すげー!なんでも出来んじゃん!!」




「ただのまめじゃなかったんだな!見直したぜ!」




「そうだろう?あ、でも金はちゃんと自分で払えよ?」





「え〜夏森おごってよ」




「ふざけんな!はい、今注文したから3〜4日で届くだろう。今日はもう遅いから帰れ。おれは見たいテレビがある」





「えー。もう?じゃあまた明日くるねー」




「はいはい。」





夏森の家を後にする。




「ノブ、ギター練習しまくってバンド組もうぜ。絶対モテるよ」




「なんかそれ、前も話したな」





話し足りない俺たちはPマートに戻り、さっきまでいなかったP兄がレジに立っていた。




「来たなー悪ガキども。」




「ねえ、P兄。俺たちバンド組む!」




「お!いいなあ!じゃおれボーカルな!」




「えー。おじさんがボーカルじゃ格好つかないよ」




「だれがおじさんだ。まだ36じゃ!」



今日も帰りが遅くなりそうだ。







部活が終わって退屈しそうだった所にちょうど良かった。





もう一度やってみるかな。








ふと、夏森と一緒に弾いたギターをもう一度弾きたくなって


埃が被った弦が一本足りないギターに手を伸ばした。



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