「ロケットに乗って」〜次男編〜

          






「おい英樹、なにボーっとしてんだよ!」





「親方...!すいません」






「お前そんなんじゃケガするぞ。気を引き締めろ!」






ヘルメットの上から頭を思いきり叩かれる。



「すいません...!」














2年前、ドラムを担当し活動を続けてきたバンドのヴォーカルが失踪し、


バンドは解散を余儀なくされた。






ずっと掲げてきた目標が無くなった喪失感もあったが、



バンドの先輩でもある親方のもとで仕事を始め、肉体労働ではあるが体力には自信があったし、給料もいい。



バンドを辞めてから生活はうんと楽になり、活動時期に抱えていた借金も
簡単に返す事が出来た。





最近ではこれで良かったのかもなと思えるようになってきた。





解散のあと、いくつかのバンドにドラムを叩いてくれと誘われたが
なんだか気が乗らず全部断った。










おれにはあのバンドが全てだった。




いまだ連絡が取れてないヴォーカルのやつは昔からの仲で
音楽性も好きで、こいつとなら...と思わせてくれるやつだった。



なぜ失踪したのか今となってはわからないが、



残された置き手紙に音楽を辞めると書いてあったのを見てから、
俺の夢も一緒に終わったような気がした。




噂では海外にいるとかいないとか。





理由は最後までわからなかったが、もっと自分が力になってやるべきだったと
後悔してもどうにもならないが、2年経った今でもそう思う。



もっとあいつの気持ちに気付いてやれてたら、結果は違ったかもしれない。







「お前は悪くない。精一杯やったさ」





飲んで酔っ払って親方にこの話をしたらこう言ってくれた。




「お前まだわけぇんだからもう一回バンド組めよ!まだまだやれるって!」





酔った勢いかもしれないが親方はこう言ってくれる。
でもやっぱり1からバンドを始めるなんてそんな気にはなれない。




だから今は信頼できる親方のもとで一生懸命働こうと決めた。






あれからもう2年か。




これから先何十年もこの2年間のような同じような未来が待っているんだろうか。




まぁ、いいや。やりたい事は十分やったさ。





そんな事を思い、たばこに火をつける。












作業現場には違和感のある姿の男が現れる。









「久しぶり」






スーツを着た男が目の前に立つ。







「はっ...?なにしてんの?」





兄の幸城だ。






「昔、兄弟4人でバンドやったよね。あれもう一回本気でやろうよ」







「お前、何言ってんの?今仕事中なんだけど...お前仕事は?」







「さっき辞めてきた」








こいつは何を言ってるんだろう。昔から突拍子もない事をよく言うやつだったが...






「冗談だろ?」







「本気だよ。四人でこのTシャツ着るんだよ。生まれた順番Tシャツ。面白くない?」







       












......あぁ...これは本気だ。昔から言いだしたら絶対曲げないやつだった。こいつは相当な頑固者なんだよな。











「おれがやるって言ったとして、下の二人がやるとは限らないだろ?あいつらも、もうそれぞれで暮らしてるんだから」








「うん。わかってる。でもきっとやるって言うよ」







「....お前どこからその自信出てくるんだよ...」






そうだった。10年前。このどこから出てくるかわからない自信をもって家を飛び出たこいつに影響受けて音楽始めたんだっけ...。





「うん...わかったよ。とりあえずあいつらに会いに行こう。...でもそのTシャツは絶対ダサいと思う!!」






「そうかなぁ?」










なんだかんだ言ってどこか楽しみな自分がいる。






やっぱりおれはまだやりたいんだな。











「今日はもう終わりだ。英樹あがっていいぞ。」










「え?でもまだあれが終わってないんじゃ?」







「今日はもうやめだ。もう疲れたからな。はい、おわりおわり」




片付けを始める親方。




「話は全部聞いてたよ。はやく弟探してこい」







「え?親方...」









「今度はしくじるなよ?」







「...はい!ありがとうございます....おれ、行ってきます」









     














クラウンは二人目を乗せ、再び走り出す。









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