「ロケットに乗って」〜三男編〜

                             







今日も人通りの少ない地下道に腰を下ろし、アコースティックギターを持ち、歌う。






たまにおばちゃんが立ち止まり何百円かを投げ入れてくれる。















1年前の今頃、おれは満員のライブハウスのステージの上にいた。







「和夫、今日もいい暴れっぷりだったな!」





「あぁ」




気づけば毎回のライブはソールドアウト。



ライブハウス界で名をあげ、インディーズからいよいよメジャーに移籍という話があった。




いよいよここまできたかと思った。









だが、メジャーからの条件は今まで通りのおれが作詞作曲を担当するものでは無く





今後は売れてる作家さんの楽曲提供で活動をしていくというものだった。
売り方としては、完全にそうとは言わないものの、完全にアイドル的な売り方だった。



大手の会社だけあってそれ以外の条件はとてもいいものだった。




自分らだけでの貧しい活動に限界を感じていた他3人のメンバーは
メジャーの要求をのみ契約しようという意見で一致した。








ずっとやってきた3人だ。当然みんなの意見を尊重したい気持ちはあった。




でも、おれはどうしてもその活動に価値を見出す事が出来なかった。




おれの曲じゃないなら、担当のやつは一体何を見て俺たちとやりたいと思ったんだろう。



確かに作曲と同様、歌もライブパフォーマンスも日々磨いてきたつもりだ。



でもそれは俺の曲あっての話だ。




確かにおれの曲は今の若い子たちにウケるような曲ではない。




例えそれで人気が出たとしても、自分を偽ってまでステージに上がりたく無い。
そんなんでやったとして、お金払って来てくれるお客さんに伝わるもんなんて何も無い。そう思った。













「悪いけど、おれは降りる」






「おい、和夫待てよ...!」










方向性の違い。バンドは必然的に解散になった。











誰かのせいにして、諦めるのは簡単だった。




おれの力が足りなかった。ただそれだけの事。




おれにもっと力があれば。






その後ひっそりと一人でソロ活動を始めた。







話題のなるのはいつも奇抜なパフォーマンスだった。




ギターを投げマイクスタンドをぶっ倒し、客席にダイブすればみんなが盛り上がった。








路上で歌う日々。












こんな事に意味があるのか。迷いつつも歌う事を続ける。






孤独との戦いだった。







        





今日も何事も無く1日は過ぎていき、ギターを片付ける。










地下道を出ようとした時、なにやら見た事のある濃い顔の男と出会う。








「よぉ。和夫。最後にやった曲すげえいい曲だな。何ていう曲?」








兄の英樹だ。






「こんなところで何してんの?」









「兄弟でバンド始めるんだってさ。お前の曲が必要なんだよ。はい、おまえはNo.3。」










「なに?そのTシャツ...ダサ....」









                          













兄弟でバンドなんて馬鹿げてる。おふざけで音楽やる気かよ。





「幸城は仕事も全部捨てて来た。本気だよあいつは。おれは、まあ、弟二人の意見を聞いてだな...」









俺の曲が必要か...








今の俺にとっては

意外と悪く無いかもなって思えた。














 

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