青の空16話「現実はいつも残酷」




休みの日。



コージとザワと市民プールに出かけた。




そこは自転車で30分くらいのところにある。






外の気温は日に日に上がっていき、最近ではもう夏を感じられるほどだ。






自転車での移動ですら俺たちは楽しむ。





「よーし、いくぞー!」





気分はウォーターボーイズだ。







プールに到着し、すでに海パンを履いているやる気マンマンの3人は、
更衣室に入りほんの数秒で服を脱ぎ、その何秒後かには水に飛び込んだ。





「ヒャッホーウ!!」




シンクロごっこやビーチボールで遊んだ。





ふと気づくザワがいない。





更衣室に戻ってみると何やらコインロッカーを物色している。





「お前なにやってんだよ...」





「ああ、このコインロッカー100円戻ってくることに気がつかない人が多いんだよ。または忘れていくか。」




「そうなの?」





「今日は大漁だ!アイスおごってやるよ、コージも呼んでこい!」





「やったぜ!」




楽しい時間はあっという間に過ぎる。





いつの間にか日が暮れていた。






帰り道、コージがモンゴル800の歌を口ずさむ。






「おい、コージお前モンパチ知ってんのかよ!?」





「知ってるも何も!ザワこそ知ってたんかい!」




「メッセージのアルバムなら全曲歌える」




「まじかよ!!」





3人でモンパチを大熱唱しながら帰った。





「ザワ、ノブはモンパチのギター弾けるんだぜ」




「ほんとかよ!すげーじゃん!」




「え、ああ、まぁ。最近はもう全然弾いてないけど」




「えっ、そーなの?」



「うん」





「じゃあおれはこっちの道だから」



ザワが自分の家の方向を指す。




「おう、またな!」









「ノブ...」





別れ際、ザワが急に神妙な面持ちになる。




「どうしたんだよ?」










「お前に言わなくてはならない事がある」





「はあ?」





「今日ずっと言うタイミングを探していたんだが中々言い出せなくて...」









「なんだよ?勿体つけるなよ」






少しの沈黙。



嫌な予感がする。










沈黙を破ってザワが口を開く。









「長谷川さんに彼氏がいる」







「えっ...?」






「サッカー部のキャプテンの木村さんだ。この間の大会見に来てたろ?」






「冗談でしょ?」





「残念だが、確かな筋の情報だ...」







心臓の鼓動が早くなっているのがわかる。






「そっか。ありがとう、教えてくれて」





「うん、まぁあんまり気を落とすなよ」





「...」





「...じゃあおれはいくよ。ノブ、また明日部活でな」




「うん」





ザワと手を振って別れた。








「よりによって木村さんとはね...イケメンでサッカーめちゃくちゃ上手いし後輩の俺たちにもすごい優しいんだ。あのファンクラブがあるほどの長谷川さんとなら...」






「コージ、それ以上は言うな...」




「すまん...」




「ノブヒロ、元気だせよ!おれがいるだろ?毎日おれが遊んでやるよ!」




「いや、毎日はちょっと...」




「おい!くそったれ!」




頭を小突かれる。




「泣いてもいいんだぞ?」




「泣かねーよバーカ死ね!」




「はあ?心配してやってんのに!」


小競り合いになる。






「コージ、明日も部活終わったらどっかいこうぜ」




「おう。どこまでもいってやるよ。深夜徘徊しようぜ」





「じゃあまた明日な!」







コージと別れたあと、ダムが崩壊するかのように涙が溢れ出した。






布団に入り、暗い部屋で天井を眺める。



長谷川さんの笑顔や、声を勝手に思い出してしまう。




胸が苦しくて、一人でいることがこんなに辛いのは初めての事だった。




結局朝までまで眠ることができなかった。




気持ち良いはずの朝の日差しと、小鳥のさえずりが
今はうっとおしい。

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