ボールをつく低い音と、バスケットボールシューズが床と擦れる甲高い音が体育館に鳴り響いている。
今日も放課後、体育館で汗を流していた。
「よーし。お前ら、中総体がいよいよ一週間に気合入れてけよ!」
「はい!」
「三年生は負ければ終わりだ。勝ち進んで少しでも長く、バスケをしよう」
「はい!!」
監督の激励に選手達は気合が入る。
厳しい練習にもすこしずつ慣れてきた。
「早く試合出たいよな〜」
ザワがレギュラー陣のゲームの得点板係をやりながらつぶやく。
「3年が抜けたらザワはけっこう出るんじゃない?」
「どうかね〜」
「おい!!石澤!!こっち2点入ったぞ!!」
先輩が怒鳴る。
「あ!すいません!!」
「...試合近いから先輩達ピリピリしてんね〜」
「ああ、こえーよ...」
反対側の女子バスケ部のコートで何やら人が集まっている。
よく見ると誰かが倒れているようだ。
「あれ、長谷川さんじゃない?」
ザワがそう言うと同時に長谷川さんが2、3人に抱えられてコートを去っていった。
「大丈夫かな?」
「ノブお前超心配そうじゃん」
「心配だろ?試合近いんだし」
運動能力の高い長谷川さんはチームのエースだ。
この間の練習試合でも大活躍だった。
エースを欠いたら厳しい戦いになるだろう。
長谷川さんにとっても最後の公式戦。もし出れなかったら本人が一番悔しいだろう。
「気持ちはわかるけど今はこっちに集中しとけ。先輩に怒鳴られんぞ俺みたいに」
「あぁ、そうだな」
怪我の容体が気になったけどザワのおかげで、無事怒鳴られずに練習を終えた。
練習が終わりコートにモップをかけている時、長谷川さんが戻ってきた。
「長谷川さん、大丈夫なんですか?」
「うん、軽くひねっただけ。2、3日すれば練習にも復帰できると思う!」
「そうなんですか、よかった」
「なにノブ、心配してくれてるの?」
長谷川さんがニヤッと笑う。
「えっ?あ、いや試合も近いし、そりゃあ...」
「ありがとう。優しいじゃん」
「あ、はい...」
照れ臭くてうまく言葉を返せなかった。
「大丈夫だよ。来週の中総体、絶対勝ってみせるよ」
「さすが長谷川さん、男らしくてかっこいいっす!」
「おい、誰が男よ」
「おいノブ早くモップ終わらせろよ!」
ザワがテキパキ片付けしながら言う。
「あっ悪い!じゃあ長谷川さんお大事にどうぞ!」
「ふふっ。お医者さんなの?ありがとう〜」
モップをかける足取りは軽い。
長谷川さんと話せるきっかけが出来て良かった。
不謹慎にもそう思う山本少年であった。
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