青の空 13話「もぬけのから」



兄にギターを借りたあの日から




暇を見つけてはひたすら同じ曲ばかり練習した甲斐もあって



一応は曲に合わせて弾けるようになった。





うちに遊びに来ていたコージに自慢げに弾いてみせる。









「えー!モンパチだ!!お前すげーじゃん!!」







「かっこいいだろ?」






「いつの間に覚えたんだよ?」








「この間、兄貴に教えてもらって練習した」








「そうか、かずさんか、さすがだな。なあおれにも教えてよ!」






「しょうがないな〜。まずこの形がパワーコードといって...」







「こう?...難しいな...」







「なあ、女子の前でライブとかやったらモテそうじゃない?」







「絶対モテるな!」







「やりてえな!」








あてもない話はとても楽しかった。






「バンド組んでみる?」






「いいね!メンバー探すか!」






「これでおれたちもモテモテ人生か〜」






「とりあえず練習しなきゃな!」







よし、また兄貴にギター教えてもらおう。


















コージが帰ってしばらくした後、




兄の部屋のドアをノックする。










「おーい、かずー?」





返事がない。





「開けるよー?」







ドアを開けた。










「えっ...?」









部屋の中は綺麗に何も無くなっていた。








「なんだよこれ...?」









「母さん!和茂は?」









「ああ、今日の朝、東京に行ったよ」











「ええ!?」






「なんでこんな急に!?こんな微妙な時期に?」






「上の二人と暮らすアパートが見つかったからね。三人一緒なら少しは安心さ。」







「あ、そうなんだ...」






「なにあんた、かずくんになんか用事があったの?」







「え?ああ、いや別に...」






「急に決まったからね、ごめんね。ちゃんとお別れできなかったね」









「ああ、全然別に大丈夫だよ」






「あれ、でもあのギターは置いてったけどいいのかな?」









「そうそう、あれはあんたにあげるって」







「そっか」











「まさか、のぶまで音楽やる気なの?」








「え?」









すこしの沈黙。







「まあ、そうだね。おれはやらないかな」








「あんたくらい大学に行きなさい?期待してるよ」






「うーん、まあ考えとくよ」









なんだろう。いつも将来の事を考えると良い気がしない。







兄貴達は三人とも音楽の道へ進むため、大都会東京へ行った。






昔から自分だけ少し歳が離れているせいか、兄弟の輪に入れていないような疎外感のような物を感じてしまう。






三人で暮らすというのを聞いて、なぜか少し寂しかった。



おれもその輪に入りたい。おれも同じように生きたい。
けどおれも音楽やるんだっていうほど格段に音楽が好きなわけでもない。やれる自信もないし勇気もない。母は大学に行けという。





考えれば考えるほど自分がどうしたいのかが、わからなくなる。









その夜はなかなか寝付けなかった。










その日から自然と黒いギターは埃をかぶったままになった。

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